もうけた命(NMさんの場合)~眼への転移と放射線治療

 その後、ほぼ毎月診察を受け、あっという間に5年が過ぎ去った。NMさんは、「もう治った」という主治医の言葉をあらためて考えながら、手術が終わり退院前に言った主治医の言葉を思い出していた。同じ「これで治った」という言葉だった。

「ということは、退院の時の治ったという言葉はウソだったんじゃないのか?治っているとは限らないと考えたから今までずっと診察を続けてきたんじゃないか。じゃあ、今回の治ったという言葉も本当に心配ないと言えるのか?」
 NMさんは考えを巡らしたが、結局、「悪いことを考えるのはやめよう」と決め、半年後に来ることにした。

 しかし、その数か月後、NMさんは右目がときどき見えにくい感じになることに気付いた。それが次第に強くなり、雲がかかったようになってきた。近くの眼科を受診したが、原因不明とされ、大学病院の眼科を紹介された。

 また来ることになった大学病院。あまりいい気分ではなかったが、診察を受け、検査を終えると、担当の先生からまたまた信じられない言葉を聞くことになった。

「NMさん、驚かないでください。右目の奥にしこりができているんです。今までのNさんの病気を考えると、このしこりは肺がんの転移の可能性があります。念のため、肺のCT写真も撮らしていただきます」

 NMさんは言葉を失った。
「治ったはずじゃなかったのか?やはりあれはウソだったのか?でも、まだ決まったわけじゃない。肺のCTで何もなければ、目は別のしこりということになるかもしれない」

 NMさんはすぐに返事をした。
「早くCTを撮ってください」

 運よくCT撮影の順番に空きがあったので、その日のうちにCTが撮られた。

「来週には結果をお話できます。来週来てください」

 長い1週間だった。そして、そのCT写真は、NMさんにとってあり得ない結果を示していた。
「NMさん、残念ながら、肺にもしこりが見つかりました。小さいんですが、手術した側の反対側にいくつかあります。それに、腫瘍マーカーも少し正常範囲を超えています。やはり、肺がんの転移だと思います。

 とりあえず眼のほうはこのままにするわけにはいきませんから、放射線治療をすることにしましょう。効果は十分期待できると思います。ただ、その後、抗がん剤の治療が必要でしょう。それは、手術をしてもらったがんセンターでやってもらうことにします」

 手術後5年が経ち、主治医から治癒宣言を受けた直後の思いもかけない再発だった。

 NMさんは、すぐに大学病院に入院して放射線治療を受けることになった。眼球への転移は極めて珍しいものという。主治医が調べた範囲では、今までに十数人の報告しかないという。だから、治療法もこれがいいと決まったものがない。

 しかし、医師にとっては珍しくて治療の難しいものだったとしても、NMさんにとっては、これがすべてである。放射線治療と抗がん剤治療で良くなってくれなければ終わりである。

 それにしても、放射線治療はたいくつな治療だった。右目の視力が落ちているだけで、そのほかの体にはなにも特別な症状があるわけではない。肺に転移が見つかったが、そのための症状もまったくない。また、同室の患者はすべてががん患者なのではなかった。

 そのため、がん以外の患者同士の話声には、ときどき冷たいものを感じさせられた。
「あの人、放射線治療受けてるんだって。あんなに元気そうなのにね」

 放射線治療を受けているならがん。がんならば、今は元気そうでもそのうちに死ぬんだろう。がんではない自分たちは死ぬことはないから、がん患者に比べればこんな入院生活もたいしたことはないということか。そこまでひがんだ解釈をしなくても、少なくともがん患者であることを憐れみつつ差別するような感じの言葉を聞くことは、闘病中のがん患者には最もつらいものである。

 NMさんは、がん患者だけの病室への転室を希望した。しかし、それはかなわなかった。NMさんは、退院し、少し遠いが車で通院して放射線治療を続けることにした。

 大学病院はさまざまな患者が治療を受けにくるため、しばしばこのようなことが起こるのだろう。がんセンターでは、患者ががんであることが当たり前なので、がん患者がこのようないやな思いをすることはないと思う。

※このブログが本になりました。「がんになって分かったこと~さまざまながんの素顔と元気な患者たち」という書名で、文芸社からの出版です。ネット販売もしています。

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