治療させてもらえなかった乳がん(SIさんの場合)~腫れあがり痛む乳房

 それから2年が経った。しこりはしだいに大きくなっていたものの、痛むようなことはなかった。しかし、最近、乳房そのものが赤く腫れあがるとともに、しこりの部分を中心に乳房全体に痛みが出て来た。

 そして、その痛みはとうとうじっとしていても我慢できないほどになってきた。痛みのために眠ることもできなくなってきたのである。こうして、SIさんは私の外来にきた。
「先生、助けてください。私、乳がんなんです。痛くて眠れないんです」

 さっそく診察をすると、右の乳房は全体が真っ赤に腫れ上がり、固くしこっていた。そして、赤い部分は乳房の下方の皮膚とその下をなめるように広がり始めていた。乳房に少し触れただけでもSIさんは痛いと言った。これは、炎症性乳がんといわれる進行した乳がんである。しかし、脇の下や頚部のリンパ節は大きくなっていなかった。

 私は、治療方針を立てるために、とにかく、しこりの部分の生検が必要だと思った。
「間違いなく乳がんですね。確かになんとか治療しないといけません。すぐに痛み止めを処方します。それから乳腺の専門医に紹介しますが、少しでも早くきちんと診断して置くのがいいでしょう。よければ、今すぐに針をさして検査したいと思います。どうですか?」

「お願いします」

 すぐに針生検を行った。しこりは右の乳房全体を占めるほどに大きくなっていたので、どこから針を刺してもがんの一部を取ることができると思われた。こういう場合は、できるだけ正常な皮膚のところから針を刺す。こうすることによって、小さな針のキズがすぐにふさがることが期待でき、針を刺したところから万が一にもがんが外に顔を出して来るようなことがないようにするのである。

 SIさんは鎮痛剤を受け取って帰った。

※このブログが本になりました。「がんになって分かったこと~さまざまながんの素顔と元気な患者たち」という書名で、文芸社からの出版です。ネット販売もしています。

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