胃の手術なんか受けるんじゃなかった(THさんの場合)~一人きりの最期

 THさんがそれまで感じていた息苦しさと胸の圧迫感は、酸素を吸うことで少し落ち着いていた。

 そのように、酸素吸入を始めた後、外から見るとかなり元気になったように見えていたが、がんはTHさんのからだを大きくむしばんでいた。

 胸部の転移巣だけでなく、腹部のリンパ節転移も拡大していて、がん性の腹膜炎が起こり、腹水も貯まっていた。THさんは、自力でトイレに行けるといっても、酸素を吸いながら休み休みやっと行くことができるという状態だったのだ。

 その朝、奥さんはいつものように病室を訪れた。THさんは、とくに変わりがないように見えた。洗濯ものが少したまっていたので、奥さんはそれを持って家にもどることにした。

 その時THさんは、息苦しさが増えただけではなく、脈が途絶えたり、反対に速くなったりするようなことが頻繁に起こるのが気になっていた。

 THさんは、奥さんが病室を離れた後しばらくして、脈がいままでに感じたこともないほどに速くしかも乱れて打ち始めたのを感じると同時に、強い胸苦しさを覚えた。

 その後まもなくして、心臓がぶるぶると大きくけいれんするように動き出したのを感じた。これがTHさんの心臓の最後の状態だった。すぐにTHさんの意識はなくなり、もう二度と戻ることはなかった。入院して1週間目だった。

※このブログが本になりました。「がんになって分かったこと~さまざまながんの素顔と元気な患者たち」という書名で、文芸社からの出版です。ネット販売もしています。

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