手術はイヤ(THさんの場合)~考えるたびに湧きだす涙

 もちろんTHさんにとって、そしてご主人にとっても、事態の推移があまりに速すぎた。

 9月に最初の診察で最も心配していた膵臓がんという診断を受けたため急いで入院して検査を受け、治療をどうするか考えているうち、元気に新しい年を迎えたにもかかわらず、2月の初めには命を落としてしまった。

 たった5か月の間のことである。ご主人にとって遺品のかたづけなど考える余裕などはなかった。そのまままったく手つかずのままである。第一、THさんの使っていたコップを見るだけで涙が出る。

 そもそもTHさんがダンスのときに着ていた衣装など自分ではどうしようもない。たしか生前にTHさんは言っていた。

「もしも、私が死ぬようなことになったら、私の衣装はみんなに分けてやってちょうだい」

 その言葉を思い出すだけで、THさんのご主人の目にはさらに涙があふれた。

 しかも、だれに分けたらいいのかまったく分からなかった。だからと言って、THさんと付き合いのあった人のところへわざわざ出かけて行って、残された服のことでお願いをするというような気持ちになるはずもなかった。

 結局、残されたものはすべて家にそのまま置かれていることになった。

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