自分はどうなってもいい~頬のあざの変化と引きこもり

 お母さんの診察が終わったあと、STさんは母親の主治医に必死の思いで聞いた。

「先生、ちょっとすみません。母のことではなく私のことなんですが、この頬のあざはなんでしょうか?心配ないものでしょうか?」

 医師は、ちょっと見て答えた。

「大丈夫なんじゃないかな。何か変化があったら、皮膚科で見てもらえばいいと思うよ」

 母親の主治医は、今は大丈夫としても、変わって行く可能性があるから、その時にはちゃんと診てもらう必要があるということを言ったのだが、STさんにとっては大丈夫という言葉だけが重要だった。

 その言葉を聞いて、もうそれ以上あざを気にしないことに決めた。

 しかし、そのあざは次第に盛り上がってきた。それでも、STさんは母親の主治医の一言を信じていた。

 あざに初めて気がついたのは2年前のことだった。それが、今では明らかなこぶ状の赤いかたまりになっていた。STさんはやはり皮膚がんだと思うようになった。

 そして、その顔を人に見られるのがさらに嫌になったためだけでなく、大丈夫と言った母親の主治医のことも考えたくなくなったために、母親の通院にも同行しないようになった。

 ただ、ちょうどその頃に父親が退職し、母親の通院の付き添いは父親が行うようになった。

 そのようにしてSTさんの引きこもりはひどくなった。食事も家族といっしょには摂らなくなり、二階の自分の部屋に父親が三食ごとに届けるようになった。

 さらに、その父親でさえ、STさんの顔にできたこぶの全体を見ることができない状態になっていた。

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