もう一度歩きたい(KKさんの場合)~最後の入院

 奥さんは自分を責めた。

「どうして起きられなかったのか?あの人を助けられるのは自分しかいないのに」

 同時に、確かに疲れ果てている自分の姿を考えた。

「このまま、自分が倒れたら本当にどうしようもなくなる。一度入院してもらうのは悪くはない」

 こうして、奥さんは救急車の後を追って緩和ケア病棟に向かった。

 KKさんの胸には、胸水がたまっていた。脊椎の転移だけでなく肺にも転移があり、それが大きくなっていたのだった。

 KKさんはときどき息苦しさを感じていた。もしかすると、夜に奥さんを起こそうとして声をかけても奥さんが起きられなかったのは、このために肺の働きが落ち、大きな声を出せなくなっていたからかもしれない。

 KKさんは、まもなく呼吸困難が強くなり、酸素がはずせなくなった。痛みと息苦しさのため、オピオイドが増やされた。KKさんは、もう退院を考えることはなくなった。

 奥さんも、入院当初は少しの休みをとってもう一度家で頑張ろうと考えていたが、もうそれを口に出すことはなかった。

 KKさんにとって、この肺への転移が致命的となった。最期を迎えることになったこの入院期間は、5週間だった。肋骨への転移が分かってから、約2年半が経っていた。

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