肝転移のある直腸がん(CBさんの場合)~主治医とのあつれき

 点滴が続くと、しだいにCBさんもいらいらし始めた。最初は、「治るまでなんどでも点滴をやってもらう」などと元気なことを言っていたはずなのに、である。

 50時間もじっとしているのがつらいようだ。しだいに首筋が痛む、腰が痛むとからだ中の痛みを訴えた。

 それを聞いて、奥さんはがんが全身に転移し始めているのではと心配になった。この前のCTの結果のこともあるので、つぎの点滴の時に主治医に聞いてみようと思った。

 忙しそうにしている主治医を捕まえて、CBさんの奥さんは聞いた。

「このごろ主人はからだ中が痛いと言うんですが、転移ではないんでしょうね?」

 主治医は答えた。

「この前のCTで直腸も肝臓もがんは小さくなっているようです。つまり、効果が出ているようです。治療を始める前の検査では骨に転移はなかったですから、今、薬が効いているのを見れば、転移が新しく起こるということは考えられません」

 この話の中で、主治医が「けんたい」ということばを使った。「検体」である。検査用の血液や臓器をさす。これをCBさんの奥さんは「献体」と取り違えた。奥さんはあわてて主治医に聞いた。

「先生、献体ってどういうことですか?先生はもう死んだあとのことまで考えているんですか?」

 一瞬、きょとんとした主治医はやっと理解できた様子で言った。

「検体のことですか?検査のことですよ。解剖のことではない。あまりこまかいことに気をまわさないことです。しつこいと嫌われますよ。点滴もやれなくなりますよ」

 奥さんはこれを聞いて、あまりにひどい言葉だと思い、精一杯の気持ちを込めて言った。

「先生、じゃあ患者はなにも質問できないってことですか?」

 主治医は、なにも言わずに立ち去った。

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