自分はどうなってもいい~初めての診察

 翌日、STさんの父親から電話があった。

「先生、息子が先生に診てもらいたいと言ってます。きょう、来てもらえますか?」

 午後の予定表を見て訪問できる時間があるのを確認し、私が言った。

「午後5時ころにお邪魔します。よろしいですか?」

 父親が答えた。

「では、よろしくお願いします」

 午後の外来診療が一段落したところで、STさん宅に向かった。すると、一階の部屋に簡易ベッドが置いてあり、そこにSTさんが横になっていた。

「診察します。痛いのはどこですか?」

 胸と腹部に聴診器を当て、とくに問題がないのを確認しながら私が聞いた。左頬からぶら下がる大きなこぶは、あたり一面にくさい臭いを放っていた。

 STさんが言った。

「痛いのは背中の上の方です。それに何よりも、この顔のこぶがくさくていやなんです」

 私はひげの中に埋もれたこぶの付け根をよく観察した。すると、正常な皮膚が引っ張られて伸び、その先に大きなこぶがぶら下がってくっついている状態であるのが分かった。

 こぶをぶら下げている直径2センチメートルほどの茎の部分は正常な皮膚で覆われていた。したがって、ここで切ればこぶを取り除ける。私は言った。

「STさん、このこぶは簡単に切り取れます。ここでやれますよ。いいですか?よければ、すぐに診療所から手術器具を持って来ます」

 STさんは答えた。

「じゃあ。やってください」

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